「わたしとあなたの決定的な違いは、あれを愛しているかいないかです」




こと



「今更言った所で詮無い話ですが、あの時あなたにはチャンスがあった。
そしてきっと、あなたは、そのチャンスをわかっていた。
そのチャンスを自ら捨てたのです。
わたしを怨むのは筋違いというものです。

何故捨てたのか。
理由は聞きません。聞いた所でどうしようもない理由なんでしょうからね。

そうでしょうか。
先ほども言いましたが、あなたはあれを愛してなどいない。
そう思い込んでいるか、もしくはまだそこまで至っていないかです。
恐らく後者でしょうね。
優しくされたから、近く話をしたから、まあそんな所でしょうけれど、あれがそんな風に接するのは別にあなただったからじゃない。

あれはこの国を欺くために存在していた者です。
この国に恩義などないし、ましてや愛などもない。
上にはどう見られていたかなどは容易に想像もつきますが、日常を過ごすのにわざわざ居心地を悪くする必要もないでしょう。
まあ、確かに今国で名前で呼ぶ飛天族などはあなたか、紅蓮の程度ですが、それもわたしに話す情報としてでしか口にしませんよ。

わたしに認められる事の方が、あなたがたの名前を覚えていることよりも遥かにあれの望みだからです。
この国の事は、あれにとっては情報の一部分でしかない。
わたしがこの国を考える時以上に。

そうですね…いち早く亡んで欲しいと心底願っていますよ。

馬鹿をおっしゃい。
きっとあなたがたの王とてそう思っているはずですよ。
世界が崩れないのは、とある賢者が三人、裏で色々としているからです。
四国の王と皇帝がいるからではありません。

…あなたが聞いたから答えたまでです。
それに嘘をついた所でわたしには何の得もない。
そしてあなたは信じない。
それなら真実を教える方が得策というものですよ。
どうせあなたごときが知った所で、どうする事もできない真実なのですからね。

あなたはただの貴族の娘です。
政治を知らない。
そして世界も知らない。

そんなことをあなたが知ってどうするつもりですか。
それにわたしも知りません。
知らなくても、わたしにとっても動かし難い事実です。
われわれに唯一出来ることは、国を愛し人を愛することだけですよ。

何度も言いますが、あなたはあれを愛してなどいない。
あれもあなたを思ってなどいない。

わかります。

いいえ、わかります。
何故ならあなたが、あなたの言う愛情を示してないからです。
カケラなりとも示していたのであれば、わたしの言葉がいかに正しいのか理解できているはずだからです。

ー……ではひとつ、話をしましょうか。
先の大戦の時の話です。
わたしは、あれを国内組にするつもりでいました。
あなたがたは知りもしない事でしょうがあれはとても良く出来た将でして、戦術にも長けているのです。
だから国に残そうと思っていました。
それを言い渡した所、激しく駄々を捏ねました。
そういうことは今の今までしない将だったのですが、あの時一度だけ、頑として頷くことをしませんでした。
いつどうなるかも判らない戦争なのに、わたしと離れるのは嫌だ。
連れて行ってくれ。
どれだけの理不尽だと言われても、わたしの側にいる。
わたしを、

愛していると、将全ての前で叫びました。

恋しく思うとは、そういうことです。
だからあなたには―――。
シェイドに縋り、追いかけることさえしなかった女になど、軽々しい口を叩く権利などない。



―――痛む?
そうですか。
ではカケラ程度でも、あなたもあれを想ってはいたのですね。

何故ならわたしはそれを乗り越えたからです。
腕が落ち、骨が砕け、脳が灰色になるような痛みです。
あなたは、そんなものを知らない。
違いますか?

わたしは腕が落ちても構わないから、あれを抱きしめたかった。
そして、そうした。
だからわたしは、あれを愛していると、誰に向かってでも叫べるのですよ。

―――では、
もうひとつだけ、話しをします。
少し前の話です。
獣の娘が、龍に恋をしました。
娘は諦めようとした時もあったと聞きましたが―――結局、
―――わたしを産みました。

両親がどれほど苦しんだかは判りません。
それこそあなたの言う通り、われわれと違い子が宿る。
己の種を捨てた子を産み落とす訳です。
つまり、われわれよりもより強くあの苦しみに晒されたのだと、わたしは想像しています。
更に異種族と交わった罰なのかもしれません。
父も母も、わたしがひとつになる前には死んでいます。
でも、わたしは今、ここにいるのです。
母がわたしをこの世に送り出し、父がそれを支えたからです。
異種であろうが子は宿ります。
例えどんな罰が下っていようとも、何を言われようとも、わたしは今ここにいるし、あれを愛しています。
母を愛しています。
わたしと、父を選んだ母です。
わたしはその母の、半身なのですよ?
わたしはシェイドを愛している。
あなたとは違う」

「じゃあ、あなたは、彼に何をしたの?」
「罰を与えました」
「…罰?罰と言いました?」
「中央に連れて行く替りに、死亡昇進なし、戦後事務処理一任、三ヶ月間の城内常駐による雑務総引き受け」
「…それが罰?」
「獣牙にとって、ひとつ所に落ちついて座っているということは、何ものにも例え難い苦痛なのです」
「…そんなの、嘘だわ」
「何故?」
「あの人は、シェイ…」
「貴様にその名を口にする資格はない。噤め」
「……あの人は、いつも図書室にいて、いつも机に座って、いつも、いつも本を持っていたわ」
「つまり、そういうことです」
「…何?」
「あれは確かに本が好きで、そう言う所では他の獣牙とは少々違いますが、ですが所詮は同じ種です」
「…」
「この国でいかに過ごす事が得策か、あれはわかっていた、ということです」
「…意味が判らないわ」
「己の性を押し殺してでも、この国に居座った、ということです」
「…それは」
「それはつまり」
「もういいわ!」
「つまり己を殺してでさえ、わたしの役に立ちたかったということです」
「……どうしてそこまで言うの…?」
「あなたが聞いたからです。あなたが身の程も知らずあれを好もしいと思い、想われている風な素振りを見せ、そうではなかった今この現実で、他人に、わたしにその責を被せようとしたからです」
「…」
「ですがあれは、確かに、あなたを思ってもいるようです」
「…え?」
「とても良くしてくれた友がいるのだと、言っていました」
「……そう」
「あなたが、あれに、シェイドにしてやれる事はひとつです。むしのいい話と思われるでしょうが、わたしもそれを望んでいます」
「……」
「あれの友として、いてやっては下さらないでしょうか」
「……頭を上げて下さい。……すごく…不愉快だわ」
「わたしもです。飛天族ごときに頭を下げるなど、シェイドのためでもなければ願い下げです」
「……つまり、それが……わたしとあなたの違い、という、訳ね」
「どうでしょうか」
「あの人に選ばれたから、出来ることなのかしら?」
「どうでしょう」
「はいと言わない限り、頭を上げないつもりなんでしょう?」
「はい」
「いい気になってるようにしか見えないわ」
「何とでも」
「どうしてよ」
「…?」
「どうしてそこまでするの」
「わたしは、
やっと、わたしを慈しんでくれる相手を手に入れた。
それを、大事にしたいだけです」
「慈しむ?」
「シェイドの幸せになる事をしてやりたい」
「……」
「わたしの、望みは、それだけです」


何故なら、まさしく同じ事を、シェイドは、わたしにしてくれたからです。
だから同じだけのことをしてやりたいのです。
自分を想う以上に相手を想えるのです。
わたしは、
それがこんなにも芳しい事だと知らなかった。
母の子であってもわからなかった。
シェイドに慈しまれてはじめて、判ったのです。
だからそのためになら、


「何だってしましょう」








私があの呟き全般に猜疑心全開で臨んでいる理由は、
こんなところからです。
シェイドのしてた事考えたら、
なんかもう涙が出る人です(私)。
本当は友情でさえ釣り合わないと思ってます。
はい。