残月
部屋が青かった。
重い扉を少しだけ押し開いて、体を滑り込ませて廊下に出た。誰もいない城というのは不気味なものだ。いないわけではないが皆眠っているのだからいないも同じだろう。普段―――昼間であれば立っているだけで感じることのできるひとの息遣いや足音は、今ではどこを探しても見つからない。ただ自分の立っていることと、動くに従って小さくあとをついてくる足音があるだけだ。
何かで覆うことをしないこの城は、空と雲がよく見える。壁やガラスや扉を大きく使う国もあるのだそうだが、そんな国に生まれなくて良かったと本当に思う。太く真っ白い柱に、すっと伸びた幅の広い廊下。これも真っ白い。そこを歩けばどこにいても太陽の光が降り注ぐ。当然、風も吹けば雨も降る。雪が降る時もある。そういうときは水浸しになったりもするが、場所がいいのか、あまりにも無残なことになったのは見たことがない。そう言えば、雪がこびりついた廊下も見たことはない。あっても柱までだ。
王族や軍師の執務室、オレたち将軍の業務室、詰め所、図書室や迎賓館には流石にガラスが張られている。何故なら紙があるからだ。特に軍師の部屋と図書室のガラスは頑丈だと聞くが、どちらも見た事がないから判らない。王族の部屋よりもそっちのほうが厳重だというのがこの国らしいと思う。
影が長いことに気がついた。
夜明けが近い。
中途半端な時に起きちまったな。
ついてない、と思うけれども仕方がない。用を済ませてまた寝ればいい。
廊下はどこまでも続いているようにも見えた。普段なら白いはずの城は、どこか青く見える。少し冷たそうな、薄い膜のような水色が、目に見える全てを覆っている。廊下の真中を歩いているから空は見えないが、両脇遠方ににそびえる崖さえも青色で覆われていた。
そういえば、起きてすぐに見えた部屋の天井も、青色だった。
瞬きをしても薄目で見ても、変わらない青色の世界。
そしてそこには音がない。
気配がない。
振り返った所で何も見つけることも出来ないだろう。
―――そこまで考えて、1度足が止まって、すぐにまた歩くのを再開した。
はやく戻ろう。
とっとと寝よう。
自分の足裏から伸びている影さえも少しだけ、怖いと思う。
どこもかしこも歩いたことのある城だからこそ、余りにも静かなことが怖いと思った。
白く青く続く廊下は、目の先で少し黒ずんだ。
渡り廊下が切れて、執務室のある屋内に差しかかったからだ。
曲がり角があって、そこから先は両面が壁。扉。きっとひたすらに、静かな闇が落ちているんだろう。
……ヤダな。
闇を恐れるのは、本来はよくないことだ。
闇は味方にしなければならない。
けれども神から人になる過程で、様々なものはからだから抜け落ちて行ったのだという。
難しいことはわからないが、それでも今まで暗い所が怖かったことなどはない。
…あーあ。
いっそ走ろうか。
それくらの勢いを付けて、角を曲がる。
暗い闇。
―――そこに一本の白いものが走っていた。
「……いないのかな」
部屋の前で逡巡する。軍師の執務室。白いものはそこから漏れていて、恐らく、いやどう見たって灯かりだ。遠くから見ただけではただの一本線だったものが、扉の前にくればゆらゆらと伸び縮みしている。それも灯かりだという証拠だ。中から灯かりが漏れているということは当然中に人がいる、もしくは今はいなくてもすぐに戻るくらいに短い外出に出ているということだろう。
「……入ってみても……」
大丈夫だろうか。
暗闇の中に走っている光。それだけでもありがたくて十分で、そのままありがとうと、先に進めばいいのだ。
―――だがこの静かで、知っているはずなのにまったく知らない世界のなかにいるという、妙な興奮。それが足を止めた。落ち付きなく、ソワソワする。昼間であればただ通りすぎるだけの、見知った扉が、物凄くいわくありげなものに見えている。
誰かがいるとしたら、それは軍師だ。
だが扉の中からは、気配がしない。ものが動く雰囲気がない。
それも気になっているひとつだ。
誰もいなくても、もし軍師がいても。
「よし」
思い切らせたのは、好奇心だ。
それから闇夜に1人佇んでいるという、裏返しの歓喜。
そこに、重職の部屋の扉だ。
その先はきっと別天地があるんじゃないか。そういうバカみたいな想像ができる条件が揃い過ぎていた。
扉は思った程重くはなかった。軋んだ音を立てることもなかった。ゆっくりと押し開いて見えたものは、真っ黒に見えるほどに高く積みあがった本だった。本棚の上にもまた本。その隙間を縫うようにして白い光が漏れている。
夜だからだろうか。そして今まで歩いてきたここ以外の、外が、青白く透明だったからかもしれない。木の皮の匂いがした。
「紙の匂いってこんななのかな…」
十分な幅があるにもかかわらず、反射的に、脇に触らないようにとこそこそと体を捻らせながら進んで行く。しなくてもいいだろうけど、自然と腰が折れていく。思わず瞬きをしてしまうほどの本と紙の山。
「すっげえ」
こんなのに囲まれてよく平気だなあ。そんな気持ちしか起きてこない。
「軍師ってのは判んねえ生き物だよな」
唇を尖らせて上を仰ぐ。それでも本棚が高すぎてその全てを見ることが出来ない。そこに足掛かりになるようなものがないのが少し気に食わない。軍師はそう言えば、背がやたらと高かった。どれもこれも、少し背を伸ばせば取れるのだろう。
オレも伸びっかなあ。あー、でも親父小さかったからな。
本棚の壁は一枚だけだった。筋をつけられているように道になり、そこを抜ければ広い、部屋のかたちがわかった。丸い。その丸い部屋の壁沿いに、これまた大量の本が積まれている。壁も本の背表紙でまだら色になっている。
そこで白いものは。
「……寝てんのか…な?」
背中を曲げ、うずくまっている軍師。
部屋の中央に設えてある机は鈍い飴色に、やはり黒く光っている。
全てが黒だ。その中で、軍師の姿は浮きあがって見えた。
机につっぷしているが手にペンが握られているわけでもなく、脇に開いた本があるわけでもない。ただ、軍師が目をつむって―――いやこれは完全に寝て―――いる。
「何やってんだ、この人」
机越しに頭を近づける。顔を覗こうと思った瞬間、ぱ、と目が開いた。
「うわっ!」
「……ゲイルか」
今まで寝ていたとは思えないはっきりした声と目が、持ち上げた上背からこちらに注がれる。
「すまない、寝ていた。今日の当直はお前だったな」
頭を1度2度、軽く振って、軍師はオレの名前を呼んだ。
「何かあったか?」
「い、や、いや、あの、ただ」
「ただ?」
「…その、灯かりが点いてたから…」
もごもごと口を動かすしかできない。内容はウソではないが、なにぶん当直詰めになったのはこれがはじめてだったから。―――用や異変がないのに、軍師の執務室に入ってはいけないのかもしれないと思えば、言い訳がましく聞こえる喋りになってしまう。それに将軍なんて地位に就いたのはついこの間のことで、この軍師について知る所があまりにも少なかった。どこまでの何をやっても許されて、許されないのか。そういったあたりがさっぱりとわかっていない。皇魔だなんだとゴタゴタしているせいだが、そのゴタゴタで昇進したようなもんだが、タイミングは外したなあと思う。キッチリした人だってのは判るけど、それ以外が全っ然…判りっこねえ。
「そうか、済まないな」
だが返って来たのは、このセリフ。
「眠るつもりはなかったんだが…心配させたようだ」
「え…あ」
「少し待っていなさい」
言うなり軍師はオレに背を向け、部屋の(あったらしい)奥へと姿を消した。カチ、カチと高い音がする。
本棚の隙間から現れた軍師は、やはり部屋の黒さからだろう。ふわっと浮いているように見えた。
「お前は今日が初めてだったな。おおかた眠れないかなにかだろう」
すい、と軍師の右腕が前に出た。
「飲むか?」
造りのいい白いカップに、白い飲み物。湯気が立っている。ああ、ホットミルクか?
「ここに置くから、いらないならそのままでいい」
そう言った軍師の左手にも同じものが見える。そっちはすぐに軍師が口を付けた。
眠れないとかではない。確かに少し、普段より特別な任務ということで興奮気味だったことは確かだが、それだって眠れなくなるほどにナイーブには出来ていない。それに、目が覚めた理由は―――。
「あ、あの、じゃ、いただきます」
それに相反しても、せっかく用意してくれたものを飲まないのは何だか悪い気がした。別にそれほど性急でもないし。
ああ甘いな。なんか入ってんだろうなコレ。……オレだけじゃないのかな、当直ん時に来たのって。
「あの、コレって、皆?」
思ったままを口にしたらメチャクチャな単語だけが出てきてしまった。軍師は特に顔を変えない。
「そうだな。顔を知っている奴とは皆1度は会ったことはあるか」
「あ、そう…」
飲み干したらしいカップをソーサーに置いて、軍師は椅子に座りなおした。当然そこにはまだ、何もない。引き出しをごそごそとやって、薄い本を取り出していた。
オレはそのまま、1口だけ飲んだまま、改めて回りを見渡した。高い天井に届く本棚と、夜だから気がつかなかっただけだろう本棚の間にあった大きい窓。ゆらゆらする灯かりは、天井とサイドボードに2,3個。
カップを両手で持っていると、そこだけがじんわりしてきた。
『セツナはねえ、優しいのよ』
―――ベリルの声が聞こえた。
何の時だったか忘れたけど、ベリルはそんな事を言っていた。ウソだぁ、とどこかでは思っていた事も。
軍師は―――セツナは、もうオレを覚えていないかのような素振りで本を読み始めている。口元に持っていってある左の指が、やっぱり白い。
『あんなだけど、強いしな。見せてやりてえけど無理だもんなぁ』
コラ兄がそう言うのだ、信じたかったけど、こっちは完全に信用ならなかった。
ステレオで言われたが、どう反応していいか判らず苦笑いだけ返したような気がする。
だがこうやって思い返してみれば、将軍職に上がってこのかた、その連中からセツナに関しての悪評を聞いたことはなかった。下にいた時はBGMのように垂れ流されていた軍師への悪態が、一歩上に上がった途端にぱたりと消えたのだ。
コラ兄を筆頭に、ベリル、オルティガ、滅多に会わないけどナタージャ、何故かナタージャより良く会う国王様。文句は言ってもそこに悪意はない。ぎゃんぎゃんと、じゃれ合いのような感じだ。目付きと口調はやたらと鋭いけれど、今こうやって話をした限りではそれも余り気になる所ではなくなっている。てのひらにじわじわと伝わるカップの温かさのせいもあるだろう。
そうやってみれば、あの二人の言い分も判ってやれないでもない。―――強いとは、どうしても思えないけど。
つまり将軍以上の連中にとってみれば、この軍師は信を置いて十分な人物なんだろう。オレみたいな何にも知らない奴に自慢でもしたくなるような。
そこは何となく納得できた。皆が肩入れしたくなる気は判る気がする。こんな風にミルクを出されて、ただいい気になっているだけかもしれないけど。目付きがやたらと鋭いのと、身長が高過ぎることはちょっとアレだけど。
だがここで判らないのが一人いた。ナタージャより接触回数は多いが、多い、というだけで殆ど僅差。つい最近南から戻ってきた蝙蝠。蝙蝠だなんてあまりの珍しさに、迎えるべき時に思わず言葉も出なかった。
セツナの直属だというシェイドは、将軍というよりは副軍師とでも言ったほうがしっくりきた。
軍師と直に会話をするということはまだ少ない。少ないなりに、それでも軍師よりは多かったシェイドとの会話で、オレはそう思った。
頭が良すぎる。
直感的にそう思えばもうそれが全てだ。そしてそれは間違いでもなかった。喋れば気さくだが、シェイドが日中余り城にいないので中々喋る機会もない。城にいたらいたで、ひとつ所に留まっている事はなかったし、あんなに体は立派なのに(シェイドは体が小さい方だから、そこは凄く羨ましい)、いつも脇には紙束だ。
そんなで副軍師、と勝手に頭の中で呼んでいるシェイドは、オレの見ている限りセツナと殆ど会話をしていない。セツナの事を喋らない。直属だから隣に立つことはあっても、一言ふたことですぐに何処かへ行ってしまう。
一方シェイドが戻ってくる、と聞いた時、コラ兄が喜んでいたのに対してセツナはそれほどでもないようだった。戻ってくる事を真っ先に知ったのがセツナだから、というわけではないだろう。コラ兄たちがそれについてセツナに喋っていた時の対応がそうだったのだから。そしてシェイドがいなかった時、オレよりも少し前に上がったベリルは仕方がないにしても、誰一人、本当のギリギリまで、シェイド、と名前を口にした奴はいなかった。そのギリギリの時でさえ、名前ではなく『奴』という表現だったのだ。スパイという職務を考えての事かもしれないが、それにしたって徹底し過ぎていた。そういう命令がセツナから下っていたのだろう。
―――そこまでするか?
目線をカップに落としても、中身が白いから顔が写ったりすることはない。小さい円がふるふると揺れている。
パートナー同士だけど、仲は良くないのかな。
勝手な想像をするのは悪いと思ったが、何となくそれしかなさそうな気がした。仲が悪いというのは、正直どちらにとっても良くないことだと思う。それで崩れるような軍師ではきっとないんだろうけども。
少しの憐れみと一緒にカップを傾けて、セツナの方を見た。本を捲る姿には、眠気は感じられない。
「セツナは、なんか仕事あったのか?」
「いや、ないが」
「じゃあなんで、こんな時間まで城にいたんだ?当直はオレだし」
寝てもOKな当直というのも何だが、何かあればすぐに起きられるならいいのだそうだ。
「少しな」
「少し」
「そう少し。残っていたい用があっただけだ」
「仕事じゃないのに?」
「まあな」
「へえ、ご苦労様。あ、じゃ、終わったから寝てたんだ。起こして悪かったな」
「いやまだだが」
「まだ?寝てたのに?」
「ああ」
「…セツナ、明日も仕事あるんだろ?」
「あるが、まあ徹夜程度ならいつもしている」
「あー…。こういうの聞くのもなんだけど、そんなに大事な用なのか?」
「下らない事だ」
「えー」
「だが、少しな」
「また少し?」
「そう少し、いいかとも思ってな」
「…ふうん」
セツナは目を上げなかった。口調にも変化はない。指だけが時折、ページを捲る為に動く程度だ。
何を聞いても多分もう、判らない。この軍師は話すことはしないだろう。
そこまでして聞きたいとは思わないし、ミルクももう少なくなっている。
セツナの用事のことではなく、シェイドについて尋ねてみたいとも思ったが、そっちの方こそ止めた方がいい事だと思って留まった。本当に仲が悪ければ目も当てられない。それとなくコラ兄あたりに聞くのが―――前にも何か言われたような気もするが―――いいと思った。カップを傾けて、中身を飲み干す。ソーサーに戻す音が凄く大きく聞こえた。
「正直」
「ん?」
突然セツナが口を開いた。顔を弾き上げれば、本を読む姿勢はそのままだったが、左手が口を覆っていた。
「どうしようもないとは思うのだが」
左手が少し下がる。
「今はあれの事しか頭になくてな」
「……あれ?」
「聞き流してくれればいい」
「あー……、ハイ」
「家に帰る気になれんのだ」
聞き流せ、と言われてもちょっと無理な内容では…ないだろうか。内容の本質などは判りはしないが、これがセツナの『下らない事』なことにはまず間違いはない。どう聞いたって政治や経済の方面の話ではない。家に帰れない程の、城に居続けたいと思う程の、帰宅さえ放れる程の何か、があるというのだ。
この、俗事になど興味のなさそうな軍師に。
…どこが下らないのか。
「詰まらん事を聞かせて済まない。……もう寝なさい」
今度こそ、糸が切られたのだと判った。これ以上の会話も何もかもが成り立たないのだと直感した。
本を読む素振りはそのまま、少しだけ頭が下がっていた。左の手は口元に戻っている。
「はい」
1度は手放したカップを、もう1度佇まい良く直すと、そのままセツナに背を向けた。本棚の道に入る間際に振りかえって、ごちそうさま、とだけ付け加えて。
光の漏れる本の山をくぐる。そして扉を開く。
扉の閉まる事につれて、光の筋が細くなり、消えた。向かい左の方にうっすらと見える青色があるだけで、それさえも呑まれるような暗闇が目にはある。目を閉じる必要などはない。でも、目を閉じた。
確かに、扉の向こうには別天地があった。
悪い事はなにもなかった。
ただそれは―――このまま1人で、抱えて眠ってしまった方が―――いいだろう。
そくそくとする胸の中の何か、に、自分1人が耐えればいいだけだ。
目を開けて、そこには相変らずの闇があった。ただし暫くじっとしていれば向かいの壁にある凹凸や、扉の模様はわかるようになる。それがオレのいる世界だ。色があって、闇があって、光がある。とてもわかりやすい世界。
そして今は夜だから、朝日が昇るまではこの暗闇と月が世界の全てで構わないのだ。
夜だというのに光に満ちて、その中央に佇む色は白。―――それは、きっと夢だ。
相変らず世界は青かった。とことこと渡り廊下を戻る。風は完全に凪いでいて、雲もないようで薄い陰さえない。行きよりもより静かになっている世界に、今は怖い、とは思わなかった。
ふと、風が吹いた。
続いて、わさ、と音がした。
導かれるように首が動いて、その先には黒い翼が浮いていた。
「おう、ゲイル」
「シェイド」
「そっか、今日の当直はお前だったなあ。初めてだよな」
「お、おう」
―――どこかで聞かなかったか、このフレーズは。
「もうすぐ夜が明けるから、それまでは我慢しろよな」
東の方はもう白いんだぜ。
音もなく着地する。土ぼこりがふわっと丸く上がった。
「いやー、俺も早く報告書書いて寝よ」
「報告書?」
「まあちょっとね。セツナが起きてくるの待つよりは、今書いて置いて来た方がいいし。コレ、正規の仕事じゃねえから」
「セツナなら執務室にいるけど」
「は?」
「起きてるぜ。早く済ませたいんだろ?行ってきちまいなよ」
「おき……」
シェイドは困惑した感じだった。そりゃそうだろう。本当なら紙に書いて置いてきたかったんだろうから。あんまり顔合わせたくはなかったってことだろ?…やっぱりアレなのかな。仲良くないのか。だとしたら余計な事言ったかもとは思ったけど、あの扉の奥にいるセツナにこの現実を送りつけるというのも悪い気もするけど、言ってしまったものは仕方がない。悪気はなかったんだし、殆ど反射だった。それに宿治を禁ずる、だ。前にセツナが言っていた。この場合ちょっと違う気もするけど。
…言い訳てのは、頭の中をやけにぐるぐるするもんだ。どっちに対しても後ろめたさがあるからなんだろうな。
「ゲイル」
「おう」
あ、何か言われるかな。
身構えるほどではなかったけど、多分目付きは座っただろう。だがシェイドは顔を変えない。
「ありがとな」
「……ん?」
シェイドは走らず、飛んで行った。翼があるってのは便利なもんなんだな。…いや、そうじゃねえ。
ありがとうって、何だ。
だが顔を傾けた時すでに翼は闇に溶けていて、空を切る音さえしなかった。
―――まだ世界は夜の中だ。
グレートマザー物語。
『シェイド特区』は、ゲイルの中ではすでになかった事になっています。
コラ兄はあんなこと言ってたけど、何だ違うじゃん。
みたいな。
違わないんだよアンタ。
見てないとこで(床と出た。間違いではない)やってんだよ。
でも、子供だから読めません(空気が)(ピタゴラ)。